分注器・ピペットの製造・販売

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株式会社ニチリョー Future Life Science Partner - NICHIRYO

田中利男先生

三重大学大学院医学系研究科システムズ薬理学
メディカルゼブラフィッシュ研究センター

2020.05.26 Updated

コンパクト分注ワークステーションNichiMart CUBEをご使用頂いている、三重大学大学院医学系研究科システムズ薬理学 メディカルゼブラフィッシュ研究センター 特定教授 田中利男様にお話を伺いました。

研究テーマについてお聞かせください

現時点で診断はできるけれども治療法がなかったり治療効果が低かったりといった、患者さんの満足度が低い疾患は現代でも数多くあります。代表的なものはガンです。治せるガンも少しありますが、多くは治せず悲しい結果になってしまう現状が依然としてあります。ガンの種類にもよりますが、一般論として抗がん剤が効く確率は約3割と言われています。

理由は、想定された抗がん剤のターゲット分子が必ずしもストライクゾーンではなかったり、同じガンで同じ抗がん剤を使っても7割の患者さんには効かなかったり、ということが起こるためです。効く人(リスポンダー)と効かない人(ノンリスポンダー)がいるのは、民族差や個体差がひとつの大きな要因と言われています。個体差というのは一般論として32億塩基対の内1,000塩基対ごとにある1塩基の違い、つまり多型(SNPs)が関わっていると言われているのはご存知でしょう。

どのSNPsが何に関与しているかは研究されているところなのでまだはっきりとはしていませんが、個体差が効かない理由として大きいことはわかっています。そこで残念ながら抗がん剤は、7割の人には効かないことが分かっていつつも投与されています。抗がん剤にも副作用がありますが、患者さんにとっていちばんよくない結果は、全く効かないのに副作用だけが現れることです。

まず我々が行いたいのは、ある患者さんにとって投与する抗がん剤が効くのか効かないのかを事前に調べることです。効かない場合は投与しないわけです。言うは易しですが、意外と世界中で実現していません。ガン毎に最初に投与する抗がん剤というものはガイドラインや世界中の臨床医の報告から推奨が決まっているので使わざるを得ませんが、現状は7割の人には効かないのです。効くのか効かないのかを投与する前に知ることができれば、個別化医療/precision medicine(精密医療)が実現されます。この実現のために世界中で行われている研究では、SNPsを始めとしたジェノタイピングが主です。次世代シーケンサーの登場や塩基配列解析のコストダウンでだいぶこなれてきているとは思いますが、そこから得られる情報にはまだ確実なものが少なく、表現型(フェノタイプ)と遺伝子型(ジェノタイプ)をつなげるところが希薄なのが現状です。ジェノタイピングで得た情報からスクリーニングすることをリバースジェネティクスと言いますが、従来はこれが主でした。

しかし近年ではフェノタイプで得た情報が患者さんへの効きと非常に相関があることが分かってきています。これをフォワードジェネティクスと言いまして、主にマウスを使った患者ガン移植モデルにより研究されています。抗がん剤の種類によってはコンパニオン診断と言って、検査を組み合わせて効く効かないがある程度事前に分かるものもあって一定の成果が出ていますが、対応しているガンの種類がまだ少ないという状況です。mRNAの発現レベルやバイオマーカー等を駆使しても、いまだリスポンダーとノンリスポンダーの区別がつきません。世界的に行われているのは、患者さんのガンを頂いて重症免疫不全のマウスに移植し、そのマウスに抗がん剤を投与して効いたら患者さんに投与するという手法です。

しかしこの手法は、コストと時間がとてもかかります。角砂糖1個分ぐらいのガン組織を患者さんから頂いて1匹のマウスに移植します。免疫系を重度に壊してあるマウスなので生着しやすくはありますが、生着しない場合もあります。さらに1マウスに1剤1濃度でしか投与できません。投与しなくてもガン組織が消えてしまうこともあります。対照を用意しないと効きが判定できませんし、そもそも1匹だけでは正確に判定できないので10匹程度には移植したいところなのですが、そうなると患者さんから頂いた角砂糖1個分のガン組織を2~3世代移植して十分に増やす必要があります(マウス1匹あたり10万個以上のガン細胞が必要)。

そうなると判定するのに1年ぐらいかかり、進行の早いガンの場合、その間に患者さんが亡くなってしまうため間に合いません。今後の患者さんの治療に役立てるための研究、と言うしかないわけですが、いま苦しんでいる患者さんにとっては何の役にも立たないということは、個別化医療・精密医療というにはまだほど遠いと言わざるを得ません。

このようなアンメットメディカルニーズに応えるために、マウスではなくゼブラフィッシュを用いたスクリーニング系を研究開発しています。

どのような過程でNichiMart CUBEを使用されていますか?

ゼブラフィッシュは1匹あたり100個程度のガン細胞を直接移植するだけで済むので、うまくやると患者さんから角砂糖1個分のガン組織を頂いた直後に、数百匹のゼブラフィッシュで検査できる準備が整います。既存の抗がん剤の効きを確認すると同時に、他のガン用の抗がん剤や研究中の新しい抗がん剤の効きも確認できる検体数があります。あるガンに対して既存の抗がん剤が全て効かなくても、もしかしたら効く薬剤が見つかるかもしれません。

そういったことを可能にするのが、ゼブラフィッシュによるスクリーニング系です。魚類は体外受精なので受精直後から観察対象にできます。マウスは母体から生まれてからでないと患者さんのガンを移植できませんので、そうなると免疫系が出来上がっているため、移植しても拒絶されます。魚は受精卵の初期、理想は28時間以内ですが36時間以内であれば免疫寛容の状態のため、移植生着しやすいのです。ゼブラの場合は、最初に頂いた角砂糖1個分だけで数百匹の検体を用意できます。

さて、検体数が多いということは、先ほど述べた通りのメリットが大きいわけですが、作業的には大変な労力が必要となります。そこで有用になってくるのがNichiMart CUBEのような自動分注装置なのです。

ゼブラへのガンの移植は、受精卵(直径1㎜程度)の卵殻を除去して強制的に孵化させ、2~3㎜の稚魚に対して行います。作業量が膨大なので、自動分注機を活用しないと患者さんを待たせることになってしまいます。私たちは患者さんの術後100時間以内に結果を返すことを可能にするシステムを目指しています。100時間というのは、例えば膵がんであれば術後に抗がん剤を投与できるぐらいに回復するのに要する時間より短いので、十分速い時間と考えています。ゼブラという神様からの贈り物があって、それを最大限活かすためにもNichiMart CUBEが必要というわけです。

ガン以外にも課題となる疾患はたくさんあって、例えば高齢化社会になってその患者さん数の多さが顕著になってきているのが加齢性難聴です。この治療薬の研究にもゼブラは役立つことが明らかにされています。内耳の細胞はマウス等からは少ししか得られませんが、ゼブラは体表に、内耳細胞と同じ由来の細胞からなる側線という器官があります。ゲンタマイシンという抗生物質が副作用で内耳の細胞を壊すのですが、ゲンタマイシンのような難聴誘発剤をゼブラに投与すると、この側線の細胞がヒトと同様に死にます。そして難聴誘発剤と治療候補化合物を一緒に投与すると、見事に難聴誘発を阻止する化合物が見つかりました。

魚類は哺乳類からかけはなれているので懐疑的な見方も多くありますが、実際にはこのようにヒトの疾患の治療薬開発に役に立っています。候補化合物のスクリーニングは膨大な数になるため、検体が多数必要になります。マウスを2万匹飼うには8階建ての建物が必要になるし、コストが膨大です。ゼブラは1ペアで200~300の卵を産み、1週間に1回産卵させられるので、数万匹を容易に用意できます。ゼブラはin vivoでハイスループットを実現できる唯一といっていい脊椎動物です。そして、そのハイスループットを実行するにはやはりNichiMart CUBEのような自動機械が必要になってきます。

今後の抱負をお聞かせください

本当は人間で候補化合物のスクリーニングができればいちばんなのですが、当然それは不可能ですよね。哺乳類であるマウスで調べても人間に効かないことがあります。さらに、哺乳類ですと動物愛護の観点でも最近は厳しい時代になってきています。

そのような状況も踏まえると、ゼブラは使いやすいモデル生物です。ただマウスもしかりですが、ゼブラにしても万能なわけではありません。例えば、ゼブラではほとんどの臓器を得られるものの肺や前立腺は得られませんし、心臓は一心房一心室です。ですが一方で人間の向精神薬がきれいにスクリーニングできます。魚なのに、人間の精神的な疾患の治療薬研究に使うことができるのです。

例えば先天性の非常に重症なてんかんがありますが、これに関係する遺伝子は人間と同じです。これをゼブラでノックアウトするとてんかんを再現できますので、数万匹で化合物をスクリーニングできます。

これまで治療薬がなかった疾患でも、ある日突然、ゼブラで見つけることができるかもしれません。究極的には人間と同じでなければダメなのでは?という考えになるわけですが、あくまでスクリーニングのためのツールであり、メディカルニーズのどこに使えるかをフォーカスし、目的のために利点を最大限に生かすという観点で、実用化を目指しています。(*)

生体レベルでのフェノタイプアッセイがあまり着目されてきていなかったのでそこを補完していくかたちですが、ジェノタイプアッセイや従来のオミクスと対立する考えではなく、相互に補完することは分かっているので、今まで弱かったところを補うということです。そのほうが臨床的な有効性にさらに近づけると考えています。

各種マルチオミクスは多くの情報がビッグデータ化していますが、それに対応するフェノタイプアッセイが、数や密度の点でマウスではまだ未成熟です。従ってサイエンスという観点でも、ゼブラフィッシュのフェノームビッグデータ化による補完は重要だと感じています。(終)

(*)さらに患者ガン移植ゼブラフィッシュモデル等のように、数多くのヒト化ゼブラフィッシュモデルが開発されています。

主に使ってくださっている弊社製品(自動分注装置)

NichiMart CUBE

コストパフォーマンスに優れた、
コンパクトサイズ分注ワークステーションです。

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