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2011.1.6 Updated

HIV/AIDS 流行の現状

市川 誠一(いちかわ せいいち)  Ichikawa Seiichi

所属:名古屋市立大学大学院看護学研究科
〒467-8601 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
TEL:052-853-8089
FAX:052-853-8032
英文:Nagoya City University, Graduate School of Nursing
1-Kawasumi, Mizuho-cho, Mizuho-ku, Naogoya City, 467-8601, Japan
e-mail:yaichisei@ybb.ne.jp

 

エイズが登場して30年がたった今、世界ではHIV/AIDSと共に生きる人々が3330万人にのぼり、HIV感染の予防とHIV治療へのアクセスが十分でない現状が続いている。わが国においても、男性同性愛者や滞日外国人などHIV感染対策が脆弱な層においてHIV感染症が広がっており、これらの人々へのHIV感染リスクやそれに伴う相談、検査、医療などの支援を促進する対策が必要となっている。HIV 感染症は、未だ社会的に取り組むべき重点課題である。

世界におけるHIV/AIDS

HIV(Human Immunodeficiency Virus)は1980年代にサハラ砂漠以南アフリカ地域において爆発的に流行し、その後パンデミック(世界的大流行)となった。UNAIDS(国連合同エイズ計画)によれば、2009年末時点でHIVと共に生きている人々(People living with HIV/AIDS, PLWHA)の数は、世界中で3,330万人で、男女比はほぼ半々であると推定されている(1)。PLWHAは、1990年から2000年代初頭まで著しく増加したが、近年になってその上昇曲線は緩やかになっている。2001年から2009年の間にHIV新規感染者が25%以上減少した国は33ヵ国あり、その22ヵ国はサハラ以南のアフリカ諸国で、もっとも流行が深刻なエチオピア、ナイジェリア、南アフリカ、ザンビア、ジンバブエは、HIVの流行が横ばいあるいは減少の兆しにあるという。その一方で、東欧および中央アジアの幾つかの地域では、新規感染者が2001年から2009年の間に25%以上増加したとの報告もある。

HIV感染症は、複数の抗HIV薬を用いた治療法(Highly Active Anti-Retroviral Therapy;HAART)が1990年代半ばごろから導入されたことにより、AIDS(Acquired Immunodeficiency Syndrome)を発症し、死亡することが避けられる時代となった。しかし、この治療法の効果は先進国では見られても、PLWHAの多い開発途上国・地域では費用面での課題がある。HIV感染者の殆どが集中しているサハラ砂漠以南アフリカ地域(2009年末現在2,250万人)は、経済力と医療レベルの現状からみて治療アクセスの体制を整備するには時間と費用を要する。このため世界的なエイズ対策の取組みを必要とする地域であるといえる(2)。

わが国のHIV/AIDSの動向

厚生労働省エイズ発生動向年報(3)によれば、2009年12月31日までの累積報告件数は、血液凝固因子製剤による感染例を除くと、未発症HIV感染者(以下、HIV感染者)が11,573件、AIDS患者5,330件である。2004年以降、HIV感染者およびAIDS患者の合計報告数(以下、HIV/AIDS)は1,000件を超える状況が続いている。わが国でも複数の抗HIV薬による治療法(HAART)が10年以上前に導入され、HIVに感染してもAIDS発症を抑えられるようになった。しかしAIDS患者の報告は未だ増加傾向にあり、自発的なHIV検査の普及や性感染症罹患者へのHIV検査の推奨など、早期検査の促進が望まれる。

2009年のHIV感染者1021件のうち91.3%(932件)、AIDS患者431件のうち93.0%(401件)が日本国籍である。そして、日本国籍HIV感染者の70.7%(659件)、AIDS患者の51.1%(205件)を男性同性間感染が占めている。HIV感染者、AIDS患者共に、日本国籍の異性間感染例(男女)は2000年ごろから横ばいで推移しているが、男性同性間感染は増加が続いている。

滞日外国国籍のHIV/AIDS報告数は1992年に332件を数えたが、翌年はおよそ半数に著しく減少した。近年の外国国籍報告例は、HIV感染者では100件前後、AIDS患者では50~70件程度で推移している。日本国内で感染している例も多くなってきており、滞日外国国籍者への予防啓発や医療の支援が重要な状況にある。

わが国においては、男性同性愛者や滞日外国人はHIV感染対策が脆弱な層であり、これらの層に対して、HIVや性感染症の情報の入手が容易となる環境やHIV感染リスクやそれに伴う相談、検査、医療などの支援環境を構築するなどの対策が必要である。

HIV/AIDSへの取組み

新規感染が依然として発生していること、そして治療によってHIV感染者の寿命が延びていることなどから、PLWHAは、今後は増加していくものと思われる。また、男性同性愛者や両性愛者、性産業従事者、麻薬等の薬物常用者はエイズ対策の取組みが脆弱な層であり、このために予防啓発が十分に行われず、結果としてHIV感染率が高い状況になっている。さらに国・地域によっては女性に対する社会的格差が存在し、このため女性はHIV感染リスクが高く、男性よりも女性のHIV感染者が多いことも指摘されている。

HIV陽性者への差別と偏見を低減し、HIV感染リスクを抑える情報やサービスへのアクセスを容易にするとともに、すべてのHIV陽性者に治療、ケア、サポートが届けられるHIV感染対策を今後も続けていくことが、日本国内でも、世界的にも必要とされている。

エイズ患者、HIV感染者報告数の年次推移-報告全数と男性同性間感染

参考文献

  • Joint United Nations Programme on HIV/AIDS(UNAIDS):AIDS SCORECARDS, OVERVIEW:UNAIDS Report on The Global AIDS Epidemic 2010, November 2010
  • Joint United Nations Programme on HIV/AIDS(UNAIDS):AIDS epidemic update 2009, December 2009
  • 厚生労働省エイズ動向委員会:平成21年エイズ発生動向年報、平成22年5月27日